岩波徹の視点
JIMTOからEMOへの提案
11 月 20 日の日工会定例記者会見で私は日工会事務局に質問した。「今回のJIMTOFで、多分初めて“公式ガイドブック”を制作しなかった。今後もそのようにするのか?」と。あの重たくて“不愛想”な公式ガイドブックが、会場で飛ぶように売れている、とは誰も思わない。制作コストも馬鹿にならない。会場を見ても多くの出展者が「カタログ請求のバーコード」と記載したカードを配っている。夕方の駅で帰路についた来場者を見てもカタログを詰め込んだ袋を下げている従来の来場者は激減した。たしかに“紙媒体”の使命は終わったのだろう。
しかし来場者が重たくなるカタログを持ち帰らないからといって、主催者がそれに便乗して「公式ガイドブック」を作らないのとは意味合いが違う。公式ガイドブックは「2024 年 11 月に東京ビッグサイトにおいて第 32 回日本国際工作機械見本市を開催した」という公式な記録なのだ。“記録”は主催者の事務所の棚に分厚い1冊のファイルに収まるだろう。しかし、出展者はもとより工業会やメディアにとり、1冊にまとまった公式ガイドブックは貴重な記録だ。ここまで書いたのだから、論を進める。JIMTOFは㈱東京ビッグサイトと(一社)日本工作機械工業会が主催者であると、対外的に思われているが、私の記憶が間違いなければ本来の主催者は東京都であり、その外郭団体の㈱東京ビッグサイトだ。私も、地方公共団体と展示会を企画したことがあるが、地方公共団体は年間の予算執行状態を県議会なり都議会に報告する。すると展示会開催の趣旨を議論することもなく「無駄な金を使ってないか?」「コストをカットしろ」などと誰でもいえることでケチをつける議員が必ずいる。だから「ペーパーレスの時代に、売れない公式ガイドブックを作っても無駄遣いだ」との方針が出てもおかしくない。いやそれくらい真剣に予算執行状況を監査して欲しい。「今回は“公式ガイドブック”制作を見送りコスト削減を実現した」と担当者は誇らしげに報告するべきだ。
日本の工作機械産業は、かつては世界一の年間生産額を誇っていた(切削型工作機械は1982 年~ 2008 年までの 27 年間、連続世界一)。何事も海外と比べないと自己評価を下せない傾向にある日本では“世界一”を誇れる数少ない産業だった。そのライバルはIMTS(シカゴ)やEMO(ハノーファー/ミラノ)に加えてCIMT(北京)、CCMT(上海)、SIMTOS(ソウル)まで加わって、その中で最高の工作機械展を競っている。冗費を慎むのは当然だが、公式ガイドブックを作らない、とは!この判断は多分、東京ビッグサイト側だろう。世界市場で争っている日工会がそのような判断をするはずがない、との前提で書いている。
JIMTOFが扱う「工作機械」は重要な戦略物資で、機械も作れば兵器も作る。そうした重要物資の展示会に地方公共団体の地域産業振興を目的とした「産業振興課」などをベースにした“見本市協会”だの“見本市委員会”だのが主催していていいのだろうか? 東京都に限らず大坂にも名古屋にも“産業振興課”的なものはあるが、同一線上で扱っていていいのだろうか。
しかし“JIMOF”というブランドの商標権は、多分、東京都が持っている。工作機械業界の将来を考えて気前よく、日工会に無償譲渡~これまでの東京都への貢献を考えればそれもありだと思うが多分、あの都知事ではむりだろう。それがだめなら別のブランドにチェンジだ。
EMOは、かつてはパリでも開催していたが現在はハノーファーとミラノで開催されている。EMOの正式な名称はフランス語の〈Exposition Mondiale de la Machine-Outil〉(世界工作機械展)だ。最初のEMOはパリで開かれ、フランス語は国連の公用語のひとつだから“EMO”がフランス語なのも筋が通っている。さて 1995 年のミラノEMOの会場で、日工会幹部が翌年開催される《JIMTOF東京》は、新しくできた「東京ビッグサイト」で開催される、と美しい動画とともに高らかに宣言した。するとその記者会見に参加した記者から「そんな立派な展示場ができたなら東京でもEMOを開いたらどうだ」と発言があった。当時はEMOの意味は“Exposition de la Machine-Outil”だと思っていたから「なぜEMOを東京で?」と、その記者の真意が判らなかった。Mondiale(世界)が入っていることを知らなかったからだ。さすがに“欧州が世界の中心”と信じている人々だ。
商標権が問題になるなら“世界”を目指して欲しい。《EMO Japan》でも《EMO Tokyo》でも良いから、真に工作機械産業に相応しい展示会を目指して欲しい。展示場の広さは物理的に勝負にならないが、例えば出展機の1台当たりの軸数や主軸モータの回転数やトルク、送り速度や加速度など、展示されている工作機械の機能を評価する調査を主催者が行い、JIMTOFに出展されている製品レベルの高さを明示する。レベルの高さを客観的に示すことのできるデータを調査して欲しい。今のままでは、高い金をとって、ただ並べているだけで“勿体ない”。
ここまで書いたので更に論を進めると、展示会場の問題がある。“国立展示場”の建設の提案だ。東京湾に面して幕張メッセ、東京ビッグサイト、パシフィコ横浜がある。名古屋や大阪、北九州にも展示場があるが、地方公共団体の持ち物だ。「産業立国」とか「ものづくり立国」といっても“口だけ”だ。地域産業の促進ならそれでも良いが、グルーバル競争の時代に、科学・技術・産業を振興するにはしっかりした地盤をもって全国からアクセスのよい立地に、国立展示場を作りつく国の産業政策に則った産業で重点的に展示会を開催する。いまの国の方針は“個社任せ”だ。そこまでやると全体主義ではないか? と批判されるだろうが、地方公共団体の産業振興課からスタートする発想では、先端技術を巡って先進国が激しく競い合っている工作機械の展示会を企画するには力不足だ。お定まりのように湾岸の埋め立て地に、平米あたり5トンの耐荷重の展示会場では、大型多関節ロボットは振り回せないし、大型成型機も高速運転ができない。大事なことは地面の品質がよいことと、会場の周囲360度に出入口があって埋め立て地のような手前と奥がないこと。交通の便がよいこと。東京ビッグサイトが5周年記念で開催したパネルディスカッションが 2001 年にあった。多くのスタッフが都からの出向なのか、ビッグサイトのほとんどの人がそれを知らない。わずかに長年いるプロパーから「先輩から聞いたが詳しくは知らない」と聞いた。
「“ゆりかもめ”など交通機関ではない」「国際展示場を目指すなら羽田に直結する電車を作れ」極めつけは「コンベンションというのは人のいるところでやるものだ。展示会場を作って、そこに人を呼ぶなど愚の骨頂だ」と激しい内容だった。企画した人は飛ばされたのではないかと心配になったほどだ。そこで中部圏だが自動車、航空機、工作機械と日本の得意技が集結している。東名、名神、中央と高速があり、北陸・長野も近い。愛知万博の跡地には“ジブリの森”などがあり人がくる。国の産業振興を本気で考えるなら、本気を出さないと中国に笑われると真剣に心配している。
最後に今年開催されたIMTS(シカゴショー)について日工会が発表した報告書から海外展示会の比較表を再度、掲載する。
