メールマガジン配信中。ご登録はお問い合わせから

ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

岩波徹の視点

BeforeとAfter

NEW! 2024 年 07 月 03 日

 あれだけ社会を苦しめた新型コロナ“COVID-19”だが、2023 年5月8日に感染症法上の扱いが2類から5類に移行し、毎日の感染者数の発表がなくなり、報道量も激減した。いまでは厚生労働省のホームページに都道府県ごとの患者数が発表されているくらいだ。日常生活の中ではマスク着用に配慮するくらいの関心度になっている。「のど元過ぎれば熱さ忘れる」ということだ。
 5月、6月に開催された各団体総会後の懇親会の中でも、(一社)日本工作機械工業会の懇親会(5月 28 日)運営に「アレ?」と思ったことがあり書き留める。
 それは役員の立礼がなかったことだ。正月の賀詞交換会では元旦の能登半島震災の被災者に配慮して“賀詞”という言葉を避け「年始会」という名称で開催し、役員の立礼もなかった。各団体の懇親会の運営の中でも、日工会はシンプルだと思う。会長の挨拶と製造産業局長の挨拶だけで乾杯もしない。「ごゆっくりご歓談下さい」で、流れ解散になる。この時は、副会長や工業会の長老も少なく、当日の天気も悪かったのが理由かとも思ったが、これまで悪天候が影響した記憶はない。むしろ東日本大震災が発生した3月 11 日が金曜日で、翌週の月曜日は東海道線が止まっており、火曜日以降も大混乱していたにも関わらず、工業会は事務所を開いていた。事務局スタッフは苦労して出勤したが「日本の製造業は災害に負けないことを示したい」と、頼もしい言葉を聞いた。
 だから5月 28 日の悪天候くらいで方針がかわったと思わなかった。むしろ当日は気がつかなかったが、会場には吊り看板がなかったという。つまり運営の簡素化を進めるのか。それは“コロナ”だから“震災”だから、ということではなく、従来のシステムの本質を見直した結果なのか。「これまではそうだった」という意識は社会の安定感に繋がるが、「それでいいのか」という意識がないと社会は進歩しない。それを意識して社会を見ると、日本ではBeforeばかりが力を持っているように思う。
 「失われた 30 年」で停滞した社会を前進させるのが「科学」であり「技術」であるが、具体的には展示会がそれを具体化していく“場”になっている。展示会ではAfterの動きが活発だ。例えば6月 19 日から 21 日まで、東京ビッグサイトで開催されていた《ものづくりワールド展》(東京)に参加していたTHKは、同展のサブ企画《機械要素技術展》に関連して「THKオンライン特設サイト」を設けて7月5日まで公開している。多くの工作機械メーカーがネット上でセミナー(ウェビナー)を運営している。各分野でAfterのあり方を模索しているが、産業界全体としての動きはまだ見えない。日工会が、懇親会のあり方を模索しているように、産業界全体でBeforeからAfterへの切り替えが進むことを期待している。