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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

岩波徹の視点

三現主義再考

2024 年 06 月 19 日

 自動車業界から始まったと思うが、現地で現物をみて現実に基づいて問題を解決しようとする考え方を「三現主義」と呼んでいる。イメージとしては生産ラインが突然止まったりしたら、まず現地に出向きトラブルの原因となった現物を見てトラブルの現実に基づいて対策を建てよう、というものだ。当然、製造現場を念頭にした“現場哲学”だが「故障」の時だけに活躍するものではないと思う。
 2008 年9月 15 日に経営破綻したいわゆる「リーマンショック」を半年以上前に予言した人がいた。工作機械に後付する測定器メーカーの社長だが、彼は同社製品を使う中国の大手部品メーカーの現場に足を踏み込んで、自社製品の現場での活躍ぶりを確認していた。当然、ユーザーとの交流も盛んだった。その彼は、中国のユーザーから、前年 2007 年末の米国クリスマス商戦がまったく振るわなかったことから、日本メーカーに発注していた工作機械をキャンセルした話をあちこちから聞いていた。年末商戦が振るわなかったのは、例のサブプライムローンである。彼の話ではキャンセルは1件や2件では無い。「大変なことになるぞ」と言われたが、当時の日工会の月例記者会見で配布される統計資料の中国向けの輸出額を見ても減少している兆候はなかった。彼にその旨を継げても「事実だから仕方がない」と応えるだけだった。そして起きたリーマンショック。JIMTOF会場で再開すると「あそこまでひどくなるとは思わなかった」と返ってきた。
 彼は、三現主義で大事な判断をしたのです。
 さてメーカーのトップは三現主義は知っているが経営に生かしているにか。いまはなくなってしまいましたが名門工作機械メーカーの日立精機は、タレット旋盤の成功が災いしてNC化に乗り遅れた、といわれ苦しんでいた。社長になった故・手島五郎氏は京大経済学部の出身で、最低でも1日1回、工場内を回った。そして現場の声を聴き、生産目標を立て大学で身に着けた統計手法を駆使して、目標をクリアするとアップした利益の半分を現場に還元したとか。その話の意義を別の工作機械メーカーのトップに伺い意見を聞いたところ、トップがいなくなったら「余計なことを吹き込むな。現場が困るだろう」と叱られた。トップには現場に来てほしくないらしい。
 さて企業のトップは、会社のすべてを知っているつもりになりがちだが、誤解に基づくものも多い。外の世界との交流を通して思い込みを修正し、顧客の現場にも足を運び、自社の現場に矛盾がないかをセンシングする努力を怠りがちだと申し上げたい。お客様の現場に行くのは今日が初めてです、と社長さんから言われたことは1回や2回ではないのです。なかには自分の社員と話すことない社長さんがいることには驚きを禁じえません。亡くなられたファナックの稲葉清右衛門氏は、社員が 1000 名を超えるまでは、一人一人の顔と名前を憶えていて、給与は直接、手渡ししていたとの伝説が残っています。