岩波徹の視点
LCAをご存じですか
今年5月末に開催された(一社)日本工作機械工業会の総会後の記者会見で、「2023 年度事業計画」が配布された。その中に、「会員企業のカーボンニュートラル(CN)実現に向けた支援」として、「工作機械のLCAガイドライン普及に向けた説明会を開催するほか、個別相談に対応する体制整備を進める。」とあった。
LCAはライフ・サイクル・アセスメントの略で、20 世紀の終わりごろにEUが言いだしたものだ。それによると、EU圏に売り込みたいのなら、その製品を、材料確保から製造過程さらに廃棄するまでの間(ライフ・サイクル)に発生するNOx、SOx、CO2などの有害物資の排出量を数値化して、持ち込む際に提出しろ。数値が大き過ぎるものは輸入させない、というもの。
自動車業界でも電機業界でも導入されている。自動車産業も電機産業も日本のリーディング産業だ。どちらもCN実現に寄与する力が大きな産業だし、率先して環境保護を進めて欲しい。LCAはその制度趣旨から、EU圏内の環境保護だった。それを日本に導入してCNに貢献しようとすることは環境保護を前進させるだろう。しかし、それを工作機械産業に援用できるか考えてみよう。
LCAは完成品を構成する“全ての部材”を対象にする。工作機械の部品点数は機種により大きく違うが、部品の複合化が進んでいるとは言ってもテレビやパソコンよりは多いだろう。自動車は工作機械より多いかもしれないが工作機械よりもはるかに量産され、産業規模は大きい。
工作機械の場合、生命線といわれる主軸こそ内製するが、実質は組立産業になっていて内製率は低い。すると多様なサポーティング・インダストリーもLCAの網をかけられるのだろうか。この場合EU圏以外、米国製品はLCAを採用しているのか、していないとしたらEU圏に輸出する場合にLCAが要求する排出量の算出は日本でやるのか、問題はややこしい。
個人的な経験だが、1990 年代にEUが統合に向かっているとき「CEマーク」が日本で問題になっていた。「電気系統の新しい規格らしい」というが内容が判らない。たまたま 1994 年に初めて欧州に行くことになり、日工会や工作機械メーカーから「判ったら教えて欲しい」と頼まれた。10 月にミラノで開催されるBI-MU展(2年に1度の工作機械展)に行き、出展者に尋ねたが、みな知らないという。狐につままれたようだった。帰路にドイツに寄り旧友を訪ねたが、彼が日独商工会議所(?)の宮井純二事務局長を紹介してくれた。この問題を伺うと「統合に向けて沢山の作業が進んでいる。電気の規格は、ドイツが一番しっかりしているが一部は別の国だ。まだ作業中なので日本で判るはずがない。EU市場が大事なら、なぜ調査に来ない」と叱られた。結局CEマークは、その電機製品の電気系統はEU圏で使っても安全です、と自己宣言すればよい、と判って気が抜けた。CNや温暖化など、個社に任せられない重要な課題を、日本からも発信できるようなグローバルな人材を育成する必要を感じている。