ことラボ・レポート
EMO Hannover 2025が終わって考える

出典:emo-hannover.com
工業機械が誕生したのは英国だがその後ドイツやフランス、イタリアに普及した。だから欧州は工作機械の発祥地だ。EMOはフランス語のExposition Mondiale de la Machine-Outil(世界工作機械展)から取られていて、2年に一度開催されている世界最大の工作機械展だ。第1回目は 1975 年にパリで開催された。かつてはハノーファ、ミラノ、ハノーファ、パリというようにハノーファを起点にパリ、ミラノで開催していた。イメージとしてはハノーファが“中心”でパリとミラノは“出先”扱いのようだ。そしてハノーファだけでいいのではないか、という議論が 1990 年代から交わされるようになった。そして 1999 年のパリEMOを最後にEMOはハノーファで2回開催するとミラノで1回開催する流れになった。ミラノからすると、それまでは8年に1回のEMO開催が6年に1回の開催になり嬉しい結果となったが、開催がなくなったパリは酷く怒ったらしい。私はその結果を 2003 年のミラノEMO会場で聞いたのだが、それまではミラノのほうが開催取りやめになる候補に挙がっていたからだ。
EMOが開催されない西暦の偶数年には米国シカゴでIMTS(通称シカゴショー)が開催されている。こちらは名称が 1990 年代に変化した。“I”は“International ”だが“MT”を“Machin Tool”(工作機械)から“Manufacturing Technology”(製造技術)に変更した。88 年にIMTSを取材したがCAD/CAMのような情報系技術はまだ普及途上だった。しかし、IT技術の進化で 90 年代には製造現場の情報技術が一気に進化してきた。それを考えるとJIMTOFは発祥の地である大阪開催を 1998 年の開催を最後に切り捨て、2000 年以降は東京開催に1本化したことが一番大きな変化だった。また(一社)日本工作機械工業会が“主催者”として名乗りを上げたのも大きな変化だった。それを機会に(一社)日本鍛圧機械工業会は、《MF Tokyo》に注力するようになった。これは“工作機械展”に振動や騒音の大きい鍛圧機械は、周辺の出展者に迷惑をかけるから、というプレス機械側の配慮が大きかったという意見もある。機械産業が進化して行くと、工作機械や工具といったハードウェアよりも制御装置や駆動装置、CAD/CAMのような情報機器の重要性が増していった。シカゴショーの名称が変化したのはそうした時代の推移に歩調を合わせたものだ。
私は若い頃、世界の工作機械業界では“3大ショー”と呼ばれでEMO、IMTS、JIMTOFの展示会が有名だと教えられていたが、海外でJIMTOFをそのように見ている人に会ったことがない。ましてや近年は北京で開催されている中国国際工作機械展CIMTを入れて“4大ショー”などとアピールする人もいるが、別に見栄を張らなくても良いと思っている。
むしろ工作機械が“母なる機械=マザーマシン”と呼ばれていろいろな国で金属加工に使われている。そこではバックグランドとしてその国の社会と密接に関係していることに目を向けて欲しい。
米国が日本の 26 倍の国土を持っていることは知識としては共有していると思うが、あの広大さを実感することはなかなかできない。日本でも後継者不足が問題となっている農業を機械化して乗り越えようとしているが、米国では既に機械化されている。日本なら農協のような組織があり、農機メーカーの営業所もありサポート体制は米国に比べて手厚い。しかし広大な米国では、農機が故障してもサービスマンが飛んでくるようなことはない。するとユーザーは自分でメンテナンスをすることになる。米国映画『スーパーマン』で主人公が学生時代に過ごした実家(?)~農業を営みその納屋が登場する。広い納屋には農機もあるが工作機械も並んでいた。普段はトウモロコシや小麦を相手にしている農夫が必要に応じて旋盤やマシニングセンタを駆使して、当座の農作業に使えるように農機を修理する。日本では考えられない流れだ。
IMTSに比べるとEMOではさらに多様なニーズに応えている。面白いのは“NC化”が進んでもNC搭載率がなかなか上がらなかった頃だ。NCはコンピュータで計算したように機械の動きを制御しようとする。しかしメカニカル技術の先進国である欧州各国は、従来のカム技術で複雑な動きを実現できると、NC化に消極的だった。ドイツ系企業に伺うと、カムは金属同士のコンタクトでリアルタイムに動きを実現するがNCはコンピュータで計算するタイムラグがあり、ドイツのユーザーはそれを好まないという。
しかし半導体の演算速度が高速化し、フィードフォワードなどの情報技術の向上でNC装置は伝統的な“カム技術”を乗り越えた。明治維新で近代産業に目覚めた日本だが、ちょうどその頃始まった産業革命の“第二段”で電気産業が始まったことがラッキーだった。金属加工は欧州で日本より約 100 年前に始まっておりその遅れを取り戻すのに苦労しているが、電気産業は欧米とほぼ同じ時期にスタートしており、欧米との競争でも後れを取っていない、とある電気工学会の会員からコメントをいただいたことがある。
さて日工会から受け取った『EMO Hannover 2025』 結果報告書からポイントを列記する。
Ⅰ.結果概要
名称:EMO Hannover 2025
主催:ドイツ工作機械工業会(VDW)・ドイツメッセ株式会社
運営実務:欧州工作機械工業連盟(CECIMO)
会期:9月 22 日(月)~ 26 日(金) 5日間
会場:ドイツ・ハノーファー国際見本市会場(Hannover Fairground)
出展者数:45ヵ国・地域から約 1,600 社 (前ハノーファ展比 13.0 %減)
来場者数:約 80,000 人(前回展比 13.2 %)
展示ホール構成:
会場レイアウト~とにかく広い
各国工作機械展との比較
資源のない日本は原材料を輸入して、それを加工、製品にして輸出するのが外貨を獲得する道だと言われてきた。「資源のない国」という言葉が国民に刷り込まれてきたが、IT技術が進化してこれまでにない国力の運用が求められる時代になって、これまで通りでよいか、という素朴な疑問が頭を離れない。
今回の「結果報告」には詳しい情報は載っていないが「技術動向概要」の項目がある。それをそのまま転記する。
■展示会の全体動向を表すような大テーマに相当する技術トピックは見受けられなかったが、各社とも顧客重視による機械の改善/アップデートを手堅く行っている印象であった。その中でもAI、DX、自動化に関するお取組みが各社で徐々に進められている模様。
■自動化に関するアプローチについては出展企業によって濃淡あり。比較的注力していると企業においては、AMRやロボットの活用、ターンキー提案のために自社の従来製品の前後プロセスに相当する機械の開発や工程集約を行う、5軸制御MCに自動化装置を組み合わせることで工程集約と長時間の自動運転を行うなど、各種取り組みが見られた。
■AIについては、自律的エ―ジェントとしての活用は現時点では見られず、自動化プロセス内でのAIによる設備/機器の状態監視であったり、説明書としての機能やユーザーの利便性をフォローするためのチャットなどサポート的な役割を中心に活用されている様子であった。
EMO会場で衝撃的なのが大きな旋盤、巨大な中ぐりフライス系などの工作機械と出会うことだ。それはパイプライン本体や継手など、欧州にとっては重要なインフラ用加工機で、日本ではいまのところ用がない。日本の企業の中には、欧州市場では販売しているがカタログには一切載せていない、という話も聞いた。2階建て建物のような大きさに、初めて見る者は度胆を抜かれる。
EMOは“技術のコンペ”と表現する人がいるがその通りだ。個人的な経験で①リニアモータと②パラレルキネマティクス(パラレルリンク)の登場が衝撃だった。このうちリニア駆動に関してはエピソードがある。
1994 年にイタリアの工作機械工業会(UCIMU)の招きでミラノのBI-MU展を取材した。ひと月後に大阪で開催された大阪JIMTOFにUCIMUから調査団が来日した。当然彼らをアテンドしたが初日のオリエンテーションが印象的だった。彼らが会場にあれば見たいと希望したのが①加速度が一番大きい機械、②1回の指令で全ての仕事を完了できる機械、③環境に優しい機械、の3命題だった。当時の私は“変なことを聞くな”と思うだけだった。そして半年後のミラノEMOはレオナルド・ダ・ヴィンチ生誕500年記念だとかでEMOとしては珍しい5月開催だった。その会場で話題を集めたのが“リニア駆動”だった。ドイツ勢はシーメンス、インドラマット、スターリニアがリニア駆動のユニットを出展していたが日本からはファナックがリニア駆動の“高速リニアプロファイラー”を出展していた。X軸もY軸も 700 mmくらいで危険防止のためにガラスケースの中で高速フライス加工をしていた。その速さに見学者が思わず後ろに飛びのけるほどだ。半年前にUCIMUの調査団は、加速度=アクセラレーションが欧州で注目されていることを教えてくれたのだ。それから約3年半後の最後の大阪JIMTOFに、牧野フライス製作所がZ軸にリニア駆動ユニットを搭載した型彫り放電加工機を出展した。さらにそのひと月後にソディックが全ての駆動軸にリニア駆動を採用した型彫り放電加工機「AM35L」を完成させプライベートショーで発表した。21 世紀に入ると工作機械業界は“リニアモータ”が一つのブームになっていた。
EMOは工作機械業界の新潮流の源流となっていることはいまも続いている。そうしたEMOに臨み日工会は期間中には①《JAPAN DAY》:9月 23 日(火)16:00 ~ 17:00、②CECIMO Press Conference:9月 22 日(月)12:00 ~ 13:00、③CECIMO(欧州工作機械工業連合)との会合:9月 22 日(月)15:30 ~ 16:15、④海外工業会との交流:AMT(米国)、IMTMA(インド)、MTA(英国)、TMBA(台湾)などの代表者に坂元会長の就任挨拶、工作機械産業の現況につき意見交換、などを行った。
DMG MORIの森雅彦社長が先日行われたリモート記者会見で、中国・インドなどの成長市場では継続するが、EMOのような成熟市場で行われる展示会への参加は 2030 年まで、と語り、これからの欧州市場ではプライベートショーを重視する方針を取るようだ。限られた経営資源をどのように投入するのか、ここ2、3年が経営者の手腕が問われる。