メールマガジン配信中。ご登録はお問い合わせから

ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

岩波徹の視点

2022年を振り返って

2022 年 12 月 26 日

 歳をとると物事に驚かなくなり「そんなこともあるでしょ」で、何でも済ますようになる、と落語のマクラで勉強した。昭和生まれの私は、すっかりそんな心境だったが、今年は驚きの連続だった。正体は見えていても不気味な新型コロナは収まらないのに、突然隣国に攻め込んだロシア。実は“突然”ではないところが日本人には判らない。

ウクライナでの出来事

 「きな臭い話」は好きではないが、機械を作る機械=工作機械と関わると避けては通れない。昔、ベルリンからハノーファまで、夜中のドイツ平原をバスで移動したことがある。月夜の薄明りの中、ウネウネと続くドイツ平原を走っていて、ドイツ軍の戦車が約 90 年前に疾駆したのか、と思いを馳せた。つまり大陸は繋がっていることに身をもって気づいたのだ。それを限りなく東へ行けば中国にまでたどり着く。その大陸の中で、言葉が違う、皮膚や髪や瞳の色が違う、習慣や宗教が違うと諍いが続いてきた。そこから宗教が生まれ、哲学が生まれて人類は賢くなったと思っていたのに、勘違いだった。岩波新書「独ソ戦」(史実)や映画「スターリングラード」(フィクション)を見ると、人の命が恐ろしく軽んじられている。欧州大陸だけではなく、アフリカでも中国でも民族間の軋轢は簡単に解消しない。科学と技術を駆使して産業を前進させる工作機械は、このような背景を持つ世界で使われることもあることをしっかり認識しておかなければならない。工作機械業界の長老・牧野二郎氏は現役時代に「民需だけで工作機械技術をここまで進歩させた国は日本だけだ。そのことに誇りを持っている」と何度も仰っていた。その言葉の重みを改めて思い知った1年だった。

W杯に思う

 そんなマイナス面だけではない。植民地になったことのない日本では判らないことのひとつが、欧米の文明に押しつぶされるという屈辱感やそこから生まれる反骨心だ。社会が豊かで体格も秀でている欧米の白人は、意識的か否かは別にしてアジアを見下してきた。多くのスポーツが、欧州の貴族の趣味から始まっているので「あれは俺たちのものだ」と考えている節がある。だから彼らは負けるとルールを替えて凌ごうとする。しかし今回のW杯では、白人社会にアジアやアフリカが勝利した。彼らの多くが産業革命の福音を受けられなかった。それらの国々が、スポーツ振興に励めるだけ豊かになったのだと、本当に感慨深い。

産業革命ルネッサンス

 日本は明治維新で「殖産興業」「富国強兵」を打ち出し、それを実践する姿勢を「和魂洋才」と表現してきた。そして最先端の産業システムを、まるまるワンセット輸入して、見様見真似で技術を習得して急速に近代社会になった。それを象徴する自動車産業は、カンバン方式を生み出し欧米社会をあっと言わせた。欧米の機械産業界と接触すると日本人はあまり好かれていないことが判る。だからだろう、ここでも“突然のルール変更”?が起きた。環境対策やSDGsの重要性を考えれば当然だが、エンジンがなくなるという。日本の高効率エンジンやミッションはSDGsを推進する一面を持つはずなのだが、それを可能にした金属切削技術が不要になるのか? EVで使う電気が火力発電から生まれるならば、差し引き計算をするべきではないか?
 EV時代になると、日本の工作機械産業が到達した高精度で高速で低価格で金属加工を行う技術の行き先が見出せない、と焦る気持ちは判る。しかしそれは医療や宇宙や光学・エネルギーなどの先端分野で必ず“嫁ぎ先”が見つかるはずだと信じている。
 JIMTOF2022 の会場内で「工作機械業界は自動車産業に甘えてきた。ついて行けば飢えることはない、と自分で考えてこなかった」という反省の声が聞こえてきた。従属してきた反作用で、価格も納期も品質も厳しい要求に応えなければならなかった。そんな仕事では家族や子供に自慢できないだろう。
 JIMTOF2022 では、工作機械業界人がこれまでとは次元の異なるステージに進むことを模索していた。新しい時代の予感がする。中世の暗い社会に光を差し込み近代社会への扉を開いたルネサンス(再生)は人類史上の一大イベントだった。経済産業省は「産業構造ビジョン2010」で「家電と自動車の一本足打法から八ヶ岳構造へ」とうたっている。EVシフトで次のビジョンが示せない自動車産業の次のステージを見つける努力を惜しまないで欲しい。2023 年は工作機械産業が、多くの産業に貢献する自律した産業となり、誇りをもって仕事ができる「工作機械元年」になるように期待している。

 今年1年大変お世話になりました。来る年が実り多い年になることを祈念して筆を置きます。