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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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日工会の月例記者会見(2024年8月)

2024 年 09 月 04 日

 (一社)日本工作機械工業会は、8月 22 日に7月分の受注額確報値を発表した。

【稲葉会長のコメント】
 今月8日夕刻に日向灘でM7.1 の地震が発生し、南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」が政府から発出された。その後、南海トラフの震源域以外である関東などでも地震が発生している。防災体制や緊急時の安全対策、BCP(事業継続計画)やサプライチェーンなどに改めて注意を払っていく。一方で今回の一連の地震について海外の過度の反応が気になっている。地震に対する備えをすることはもちろん大切だが、大地震が発生する率は極めて低く、日本は総じて安全な国だと政府が海外に向けて発信して欲しい。
 また8月は金融市場においても激震が走った。米国での景気後退懸念の高まりから、8月5日の日経平均株価は、前週末比で¥ 4,451 -安い¥ 31,458 -となり、この下げ幅は 1987 年のブラックマンデー翌日を超える大きさであり、本年7月 11 日に記録したばかりの過去最高額から1カ月足らずで¥ 10,000 -以上下がったことになる。さらに米国での利下げ観測と日本での利上げ観測が重なり、ドル円相場は年初以来の 144 円台、また対ユーロでも 154 円台まで円高が進んだ。
 その後株価はある程度持ち直したものの、先行きに対する警戒感が残っており、今後もやや神経質な動きが予想されている。
 国内の景気動向に関しては、8月 15 日に内閣府より、4-6月期、実質GDPの速報値が、季節調整値の前期比で+ 0.8 %、年率換算で+ 3.1 %と2四半期ぶりプラス成長となった。自動車産業の生産再開が消費に効果を及ぼしたほか設備投資も前期比で+ 0.9 %と貢献した。
 一方、名目GDPは前期比で+ 1.8 %、年率換算で+ 7.4 %となり年換算で初めて 600 兆円を突破した。

工作機械の受注額【7月確報】 ※速報値は8月 13 日発表

1.概況【7月受注】:
受注総額:
1,239.4 億円(前月比△ 7.4 %(3カ月ぶり減少)、前年同月比+ 8.4 %(3カ月連続増加))
受注総額は、2カ⽉ぶりの 1,300 億円割れも、5カ⽉連続の 1,200 億円超
前年同⽉⽐も3カ⽉連続増加で、外需を中⼼に回復傾向が⾒られる
【稲葉会長のコメント】夏枯れが始まる季節としては底堅い状況が続いていると言える。

(1)内需 357.0 億円(前⽉⽐◬ 12.5 % 前年同⽉⽐ △ 9.3 %)
前⽉のまとまった受注の剥落等もあり、2カ⽉ぶりの 400 億円割れ
⾃動⾞を始め、主要業種を中⼼に依然⼒強さに⽋ける
(2)外需 882.4 億円(前⽉⽐ △ 5.1 % 前年同⽉⽐ + 17.7 %)
2カ⽉ぶりの 900 億円割れも、3カ⽉連続の 850 億円超と⾼⽔準持続
主要3極では、⼤型受注もあり北⽶のみ前⽉⽐増加
⇒7⽉の受注は、前⽉からやや落ち着いた展開も業況に⼤きな変化は無く、 本格的な受注の回復時期等について、今後の動向を引き続き注視

.内需【7分】
内需 357.0 億円(前月比 △ 12.5 % 前年同月比 △ 9.3 %)
(1)内需総額
・2カ⽉ぶりの 400 億円割れ
・前⽉⽐2カ⽉ぶり減少  前年同⽉⽐ 23 カ⽉連続減少
・6⽉の反動や季節要因もあり前⽉⽐減少。依然⼒強さに⽋ける状況が継続
(2)業種別受注
・主要4業種:「一般機械」「自動車」「電気・精密」「航空・造船・搬送用機械」
前⽉⽐:「電気・精密」のみ増加
前年同⽉⽐:「電気・精密」と「航空・造船・輸送⽤機械」が増加
・全 11 業種中
前⽉⽐:減少7業種(「商社・代理店」「航空・造船・輸送⽤機械」等)
前年同⽉⽐:減少7業種(「商社・代理店」「その他製造業」等
「電気・精密」は4カ⽉ぶりの 50 億円超。「航空・造船・輸送⽤機械」は4カ⽉ぶりの 20 億円割れ

主要4業種

(3)一般機械(産業機械等・金型)向け受注
・⼀般機械計は、2カ⽉ぶりの 160 億円割れ
・産業機械等は、2カ⽉連続の 140 億円超。⾦型は、2カ⽉ぶりの 15 億円割れ
・2年近く前年同⽉⽐減少が続いており、全体的に回復の動きは鈍い

(4)自動車(自動車部品・完成車メーカー)向け受注
・⾃動⾞計は、5カ⽉ぶりの 70 億円割れ
・⾃動⾞部品は、2020 年8⽉(32.8 億円)以来、47 カ⽉ぶりの 45 億円割れ
・完成⾞は、前⽉の反動減も、6カ⽉連続の 20 億円超
【内需に関する稲葉会長のコメント】
 AI用半導体などで需要の拡大が見込まれる半導体製造装置関連や、2026 年販売開始モデルの自動車関連の生産で検討が進み、今後、徐々に実需に繋がると思われる。
 8月6日に日本政策銀行が発表した、最新の「全国設備投資計画調査」の結果を見ても、半導体や自動車に加え、物流 2024 年問題に対処するための省力化需要、国内の生産拠点を強化する動きと相まって 2024 年度の大企業による国内設備投資額は、前年度比で+ 21.6 %の増加が見込まれており、工作機械の受注もこれに応じて高まるものと期待できる。
 一方で国内の中堅・中小企業にとっては新しい機械の導入よりも、改造や修理をこまめに行い、古い機械を可能な限り使うことが一般的だ。この点で、積極的に設備投資を進める大企業や最新鋭の設備導入を熱心に進めている中国などの海外勢と比べ、日本の中堅・中小企業の競争力は低下し続けていると言わざるを得ない。こうした状況を打破するためには、企業の設備を最新鋭の設備に更新するよう政府による抜本的な支援・後押しが不可欠と考える。この点を政府や様々な団体、報道機関とも意見交換して認識を共有したいと考えている。

3.外需【7月分】
外需 882.4 億円(前月比 △ 5.1 % 前年同月比 + 17.7 %)
(1)外需総額
・2カ⽉ぶりの 900 億円割れ 3カ⽉連続の 850 億円超
・前⽉⽐3カ⽉ぶり減少 前年同⽉⽐3カ⽉連続増加
・アジアは⾼⽔準持続、北⽶は⼤型受注で前⽉⽐増加、欧州は夏季休暇もあり減少

(2)主要3極別受注
①アジア
アジアの受注額


アジア計は、前⽉⽐減少も、4カ⽉連続の 400 億円超と、中国を中⼼に⾼⽔準持続
-東アジアは、域内すべての国・地域で前⽉⽐減少も、4カ⽉連続の 300 億円超
  -中国は、2カ⽉ぶりの 300 億円割れも、300 億円近い受注が継続しており、⾼⽔準持続
-その他アジアは、2カ⽉ぶりの 100 億円割れも、2024 年⼊り後は 100 億円前後での推移が続く
  -インドは、9カ⽉連続の 40 億円超と堅調持続

アジアの業種別受注
・主要4業種は、すべて前年同⽉⽐増加
・⼀般機械は、中国で前⽉から⼤幅減も、3カ⽉連続の 140 億円超と⾼⽔準持続
・⾃動⾞は、中国、インドを始め、多くの国・地域で前⽉⽐減少し、4カ⽉ぶりの 120 億円割れ
・電気・精密は、その他アジアで前⽉⽐増加も、東アジアで減少し、2カ⽉連続の 80 億円割れ
・航空・造船・輸送⽤機械は、まとまった受注が今⽉は⾒られず、4カ⽉ぶりの 10 億円割れ
【稲葉会長のコメント】
 中国では旧式の機械を下取り最新機械に置き換えを促す補助金が下支えになっているほか、EVや次世代スマートフォンへの活発な設備投資が続いている。
 また韓国や台湾などでも持ち直しの動きが見られるほか、インドやベトナムなどその他のアジアの国々でも前向きな動きが見られる。

欧州
欧州の受注額
欧州計は、2021 年4⽉(149.6 億円)以来、39 カ⽉ぶりの 150 億円割れ
-ドイツは、2カ⽉ぶりの 40 億円割れ
-イタリアは、5カ⽉ぶりの 20 億円割れ
-EU“その他”(23.9 億円)は、7カ⽉ぶりの 30 億円割れ
-イギリス(11.7 億円)は、6カ⽉ぶりの 15 億円割れ

欧州の業種別受注
・主要4業種は、すべて前年同⽉⽐減少
・⼀般機械は、その他の⻄欧で前⽉⽐増加もEUで減少し、2カ⽉連続の 50 億円割れ
・⾃動⾞は、ドイツ、イタリア等、EUを中⼼に前⽉⽐増加し、2カ⽉ぶりの 20 億円超も低調
・電気・精密は、EU、その他⻄欧とも前⽉⽐減少し、4カ⽉ぶりの 15 億円割れ
・航空・造船・輸送⽤機械は、EUが 13 カ⽉ぶりに 10 億円を下回り、2カ⽉連続の 15 億円割れ

北米
北米の受注額

北⽶計は、アメリカ、メキシコで⼤型受注があり、2カ⽉ぶりの 250 億円超
-アメリカは、3カ⽉連続の 200 億円超
-メキシコは、2カ⽉ぶりの 20 億円超

の業種別受注
・主要4業種は、電気・精密と航空・造船・輸送⽤機械で前年同⽉⽐増加
・⼀般機械は、3カ⽉連続の前⽉⽐減少で、2022 年1⽉(49.2 億円)以来、30 カ⽉ぶりの 65 億円割れ
・⾃動⾞は、メキシコで前⽉⽐増加も、アメリカで減少し、2カ⽉連続の 35 億円割れ
・電気・精密は、アメリカを中⼼に前⽉⽐減少し、4カ⽉ぶりの 20 億円割れ
・航空・造船・輸送⽤機械は、⼤型受注により、2022 年1⽉(115.8 億円)に次ぐ、過去2番⽬の⾼⽔準

【外需に関する稲葉会長のコメント】
 外需については、このところけん引役となっている中国の過去数か月の受注を力強く押し上げた、補助金効果について、その持続性について注目した。我が国と同様に、中国においても予算枠があるとみられ、今後この効果が一旦弱まる可能性が考えられる。中国政府は4月 25 日に超長期国債を原資とする大規模設備更新と消費財の買い替えの支援強化に関する若干の措置を発表した。この先の長期にわたる下支えが期待される。
 また北米や欧州については、景気や金利の動向、政治の動きを見定めようとする様子見が感じられるが、当面は落ち着いた展開が続く可能性が高く、大きな落ち込みはないと思われる。

AMT事務局コメント
2024 年6⽉(P):4億 232 万ドル、前⽉⽐+ 4.3 % 前年同期⽐△ 1.6
「6⽉も受注は勢いを維持し、⾦額は増加したものの、受注台数は 23 年7⽉以来最も低くなった。これはメーカが⾃動化投資を進めていることを⽰している。ジョブショップからの受注は台数、⾦額とも前⽉から 10 %以上減少するなど、ジョブショップ向け、⼀次⾦属メーカ向けの上半期受注は、2010 年上期以来の最低額となった。⼀⽅、航空宇宙部⾨は、⾼い稼働率を背景に好調を維持している。」

(参考)
マクロ経済の状況
GDP統計(4~6月期:1次速報)の概要(内閣府8月 15 日)
●実質、名目GDPとも2四半期ぶりのプラス成長
(1)実質GDP:前期比 + 0.8%(年率換算+ 3.1 %)2四半期ぶりプラス
(2)個人消費:前期比 + 1.0 %(年率換算+ 4.0 %)5四半期ぶりプラス
(3)設備投資:前期比 + 0.9 %(年率換算+ 3.6 %)2四半期ぶりプラス
(4)外需(寄与度):前期比 △0.1ポイント 2四半期連続マイナス
【稲葉会長のコメント】
 現在、工作機械受注は、しばらく続いたゆるやかな調整局面から第4四半期以降の本格的な増加局面に向けて一進一退を繰り返しながら地固めが進む転換期にある。例年夏場のこの時期は、季節要因により商談は落ち着く傾向にあり、8月についても受注額は横ばい、あるいは前月比で小幅な減少となる可能性があるが、会員の関心はその先、9月以降の受注動向に向けられている。
 冒頭に述べたが、8月は株価や為替が大きく変動し国内では巨大地震発生に対する警戒感が高まった。しかし、会員へのヒアリングの結果では多少の影響はあるが小幅にとどまると考えられていて、多くの会員が受注の増加を予測している。
 9月は米国シカゴでIMTS、ドイツではシュツットガルトでAMBといった大型展示会が開催される。私はIMTSに行き各国の工作機械関係者と積極的に情報交換をしてくる。

★次回、2024 年8月次の受注額の報告は、速報が9月 10 日(火)15 時、確報値は9月 26 日(木)10 時 30 分からの記者会見で。報道解禁は同日 15 時。