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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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浅川基男・早大名誉教授の「素形材月間記念式典」⑤(最終回)

2024 年 09 月 18 日

 早稲田大学・浅川基男名誉教授による記念講演「日本のものづくりはもう勝てないのか?!」の5回目で最終回です。これまでの趣旨をかいつまんでお知らせします。
 世界では大きな変化が起きているのに、人口の減少が進む日本では変化に対応できていないこと、そればかりか内向きになった日本では国力の低下を止められないでいる。さらにそれに追い打ちをかけるように、研究開発への支援や教育投資も削減され、日本の将来が心配される。さらに日本の製造業の陥った“罠”についても心配だ。

アナログとデジタルのハイブリッド化

DXを先駆けたインクスおよびコマツ

 日本が“失われた 30 年”と言われていた頃、金型業界のベンチャー企業「インクス」(Inter Computer Systemの頭文字)が誕生した(1990 年)。今のDX(Digital Transformation)、Industry 4.0 に挑戦した野心的な企業だ。若い人が集まりやすい新宿で設計データをつくり大田区の工場に送って金型製造期間を短縮した。従来の製造業の概念を革新的に打ち破った。このシステムは自動車メーカーや精密機械メーカーに採用され始めていた。しかし 2008 年のリーマンショックにより資金繰りに窮し経営破綻してしまった。
 建機メーカー大手の「コマツ」は、1990 年ころから、建機の自動運転化に取り組み“コンピュータ付きブルドーザー”を推進した。2001 年には建機にGPSやセンサをつけて稼働状態を把握するシステムに発展させた。
 どちらも世界に先駆けてアナログ技術を基礎にデジタル技術を融合させたもので、日本におけるIoTの先端を走ってきた。

アナログとデジタルのハイブリッド化
 ここで使われている言葉を定義しておく。
アナログ:エンジンやモータはアナログ。スイッチのON、OFFで使うデバイスです。
新しいアナログ:アナログ機器を組み合わせて駆動系としたもので複雑な制御は行わない。
デジタル:新しいアナログを統括して制御する技術。
ハイブリッド化:「アナログ技術」と「デジタル技術」の合体させること。
システム化:これらをインターネットなどと組み合わせて利用者の利便や自動運転に発展させる方法を「システム化」と定義する。
 これらのものづくりの核はアナログ技術であり、「プリウス」はアナログとデジタルのハイブリッド化の典型であり、日本が世界に誇る技術だ。デジタルとアナログのハイブリッド化技術を有する国は現時点ではドイツと日本ぐらいで、米国は 1980 年代に金融とIT化に走り、アナログの原点である製造業の多くを捨てRust Belt(錆びた地帯)化した。

今までのものづくり
 このことから「これからは情報、AI、データサイエンス」と短絡し学生は情報系学科をそのまま選択しやすい。ディープラーニング(Deep Learning:コンピュータが自動的に大量のデータの中から希望する特徴を発見する技術)を主体とするAIは、電気や機械出身者の能力と親和性がある。電気や機械を学ぶには1~2年以上にわたる基礎的専門知識や実験・実習が必要である。AIなどを含むデジタル技術を高度化するためにはアナログ要素の現場が大きな役割を果たすので、現場力を習得したエンジニアは、はるかにAIに馴染みやすく身に付きやすい。しかし、その逆は難しい。「これからのAI時代の三種の神器は電気・機械・ディープラーニング」(東大・松尾豊教授)

これまでの日本のものづくり
 日本のものづくりは「暗黙知」によるノウハウの蓄積を図ってきたが、これを形式知(デジタル化)にした瞬間にノウハウが海外に流出する苦渋を舐めてきた。「単なるデジタル化はものづくりの墓場」と言われる。
 デジタルの本質は簡単操作化にある。スティーブ・ジョブスが最もこだわったのが、この簡単操作化だ。しかしアナログ技術にはデジタル化できない長所がある。例えばLPレコードは 100 kHz以上の周波数帯に対応できるが音楽用デジタルCDは 22.5 kHzで打ち止めだ。最近、LPレコードが復活しているのはそこにある。デジタル技術はいつの時代でもアナログ技術を師匠としている。
 アナログとデジタルは螺旋状交互に影響し、上昇し合う技術である。これこそ日本の得意とする融合深化による擦り合わせ技術だ。AIなどはアナログ要素の強い現場の力を増強させる役割が大きい。ハイブリッド化技術を有するのはドイツと日本ぐらいだ。

DX(Digital Transformation)とものづくりとその事例
 現在、製造業においてはセンサ、電気・電子機器、駆動装置などの刻々の情報がネットワークを通してサーバーやクラウドサービスに接続して、品質情報や稼働保守状況、IoTにより、故障の早期発見および装置の保守、製品の高付加価値と客先との密な交流に役立てることができる。人口減少時代に必須な手段だ。
 ドイツでは人口減少への対策と製造業の国際競争力維持と向上のために、ドイツ政府の肝いりで、Industry 4.0 が提唱されてきた。ドイツ製造業は企業数の約 99 %が中小企業で、多くが家族経営となっている。
 まず付加価値が高い製品に特化し、熟練工の減少と高齢化に対処するために、職人技やノウハウを自動化してデータやセンサを用いて熟練技術の代替となるように製造機器を運用すること、すなわちものづくりの現場の自動化・省力化・労働生産性の向上を図る。さらに製造現場のみならずIoT技術を用いて製品や部品にセンサを装着して顧客へのサービス提供で競争力を高めようとしている。
 日本の製造業、とくに中小零細の多い二次金属加工業では、製造機械の約3割強が 30 年以上経過しており(2018 年時点)、老朽化装置からデジタルデータの取得は困難で費用もかさむ。世界規模でDXが進む中、日本では業務効率化やコスト削減、あるいは旧来型のシステムの更新や維持に費やされている。リスキリングや人材の異動も含めて「守りのIT投資」から「攻めのIT投資」への資源投入が強く望まれる。

ハイブリッド化からシステム化へ

 デジタル化に対して虎の子の技術をアナログのまま残して簡単に流出させない選択肢もある。一方、これを設計し製品化し市場を拡大する。“ものづくりのシステム化”が弱いとされ、携帯電話・慰労機器・半導体製造装置など海外シェアを失ってしまった製品群も多い。
 これまでデジタルエコノミー時代の寵児といわれてきたGAFAは、スマホやPCなどを介して“データとデータ”を組み合わせて存在価値を発揮してきた。しかしインクスやコマツ、先端鋳造産業の事例のように“アナログとデジタル”を組み合わせて客先と一体化したシステムを構築する方向が重要であり、かつ日本が得意とする分野でもある。
 幕末の鍋島直正や小栗忠順、岩倉具視らが生きていたら「ものから生まれたデータをシステム化せよ、それを実現する国産のOSやアプリ、サーバーを開発増強せよ、GAFAやMicrosoft、IBMを追い越せ! 国際規格や特許も気迫と戦略をもって自国に有利になるように海外と渡り合え」と叱咤激励するのではないか?

ものづくり産業の活性化策

 みずからチャレンジしなくなった日本
 日本政府は企業の生産性向上と設備投資増大を期して財政出動や量的緩和で資金を民間に投入してきたが 1990 年以降、意欲のある起業家を増やす施策制度改革が遅れた結果、資金は有効活用されず国の債務が膨れ上がり現在の低迷を招いた。
 日本もかつては世界的な商品開発をした。アップルのiPodはSONYの「ウォークマン」が原点だ。インターネットによるi-mode携帯電話はNTTが世界に先駆けて開発した。有機LEDを始めて商品化したのもSONYだ。あらゆるものをネットワーク化したOSのTRONは坂村健が開発し、3Dプリンターの原型となる「光造形法」は小玉秀男の発明だ。
 独自で魅力ある製品で需要喚起しなくなったのか?
 それは教育環境にある。例えば高度成長が終わりかけた 1970 年代に東京都に学校群制度が導入された(正確には 1967 年から)。これにより進学率の高い名門都立高校の進学実績がみるまに低下して行った。“平均”“みんな一緒”がキーワードで能力差を見える化させない手法だ。廊下に試験成績が貼り出されなくなり運動会の競争にも順位をつけなくなった。
 「自分だけ突出しない」「自己主張や異論を吐かない」「決められたことだけやる」が是とされた。この環境で小学校6年間、中学校3年間、高校3年間を過ごすと、周囲を見渡し目立たないように忖度しながら生活する悪しき平均化の流れが定着した。新しいことに挑戦する意欲、自分だけは他と違うとするマインドの発現の余地がない。 同じような環境で育ってきた先生が、次の世代の生徒を変えられるだろうか?「日本人による日本人のための日本だけに通用する英語教育が絶望的に終わっていることが物語っている。
 世界では「ギフテッド(才能を授かった人)」を認めて小学生でも飛び級を認めて有名大学に推薦させることがある。彼らは奇抜で面白いビジネスを考えることがある。日本の教育は、平等が第一で、「みんな一緒に」九九を覚えさせ、ギフテッドな子供たちに苦痛を与えるだけでなく、その才能を潰すことになる。
 1990 年代頃から世界の企業は“①スピードと即断即決、②トライ&エラー、③先端技術の適用、④走りながらの適用、⑤オープン戦略、⑥製造アウトソース、⑦ネット活用、⑧能力ある個人の活用”などと大きな潮流が始まった。
 「21 世紀の最大の変化は集団の時代から個の時代への移り変わりである。個すなわち人間一人一人がそれぞれ独自の特質を活かし、独創的な発想と自分の価値観に忠実に生きる社会こそが活力の根源となる」と堀場雅夫(堀場製作所創業者)も訴えてきた。
 「日本の自然科学・工学分野」においても、いわゆる受験勉強体制とは分離・独立した方式で、現行制度をバイパスできる戦略的教育システムの導入・構築・強化する必要がある。
 海外の優秀なエンジニアと一緒になって学び働き、意思疎通を重ねながら世界的視野をはぐくむことが一番の早道である。日本活性化の起爆薬・呼び水として「自己主張」できる外国の優秀な教員や若者を、積極的に日本に招き入れたい。明治初期に外国人講師を招聘した経験もある。

外国人の招聘

 沖縄科学技術大学院大学(OIST):2011 年に沖縄県に設置された私立大学で5年一貫性の博士課程を有する大学院大学。2019 年6月に科学誌『ネイチャー』が発表した「質の高い論文ランキング」で世界の9位に入った。半分以上を海外からの有能人材を招聘した。その中のスヴァンテ・ペーボ教授が 2022 年「絶滅したヒト科動物のゲノムと人類の進化に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞した。彼は「創立 10 年の若い大学だが素晴らしい。世界中から多くの人材を採用して研究グループ同士で相互にやり取りができるのがとても刺激になる。科学のために良質なインフラを作った輝かしい一例だ」と称賛している。
 例えば大相撲に入門してくるモンゴルを始めとした外国籍の力士や、ラグビーワールドカップの日本代表には半数近くが外国出身だ。優秀な海外のエンジニアを招き、日本人のマインドや行動を変えることが極めて重要である。絶望的な英語教育の事例にみられるように教育内容の改革は必要であるが、いまの日本にはその時間が残されていない。

外国企業の誘致

 アイルランドは思い切った優遇税制を武器にインテルの工場誘致に成功、その後グローバル企業の呼び込みにも成功、同時並行で大学無償化などの教育政策を充実させてIT分野を中心に優秀な労働者の育成を図った。その結果、アイルランドの賃金はみるまに上昇して今では世界でトップクラスの労働生産性を実現した。
 日本の半導体産業は、1980 年代の米国からの外圧と日本企業間の縦割り体質のために世界の 50 %のシェアから 10 %以下へ転げるように凋落した。これも航空機産業と同様に「世界に半導体を売り込むビジネスマインド」が欠如していたから。そこで半導体産業を日本に再興するべく外国の力を借りてファウンドリー(製造専業の半導体メーカー)の代表格TSMC(台湾積体電路製造)を日本政府が招聘した。熊本県に1兆円を投資して、昼夜突貫工事で2年後の完成を目指している。TSMCの 2021 年の時価総額は約 62 兆円でトヨタの約2倍だ。

女性の活躍

 女性研究者を世界比較すると世界では、30 ~ 40 %を女性が占めている。しかし日本では最低ランクの 16 %だ。国会議員および民間企業における管理職・役員に占める女性の比率もほぼ同数だ。少子化時代を考えると女性は埋もれた存在ともいえる。女性の活躍度が増大すれば、質的にも量的にも日本の将来を変える可能性を秘めている。
 日本の理工系進学率が2割強と、OECD先進国の中で最低であることは既に述べた。少子化の中で女子の理工系進学率は 15 %、特に機械系の女子学生の比率は 10 %以下だ。大学受験時の対策では手遅れだ。小中高の初等教育の段階から理工系の魅力を実感してもらう施策が重要だ。

ものづくりエンジニアへのメッセージ

 経済的にそこそこ満たされてきた今の若者にどのような“思い”が必要なのか、筆者(浅川基男)のエッセー『モトイズム』より箇条書きに抜粋したものからピックアップした。

若者へのアドヴァイス
 ・スキルが足りない若い社員には「会社を辞めるな」と説得している。会社の中の挑戦なら、先輩方がバックアップしてくれるし、何かあっても会社が守ってくれる。失敗しても大きな損失を出しても、自分が破産して路頭に迷うこともない。だからサラリーマンこそ思い切った挑戦ができる(出井伸之・元SONY社長)

学業および仕事
 ・創造性は真似ること。内からの自発的なクリエイティビティは稀である。優れた研究者と話し、そばにいて「フーン、こういう風にやるのか!」と読み取る。クリエイティビティも真似からはじまる。(ノーベル賞受賞:利根川進)
 ・戦後、鉄鋼部門を分離独立し川崎製鉄(現JFEスチール)を設立した西山弥太郎は、資本金5億円の会社なのに 163 億円もの巨額を投じて、戦後初の臨海製鉄所を千葉に建設した。1953 年に1号高炉に火入れに至った。この英断がその後の多くの企業による果敢な設備投資を促し、高度経済成長を推進する起源になった。(黒木亮「鉄のあけぼの」より)
 ・「挨拶ぐらいしろ」と叱ると学生は素直に改める。いままで挨拶で親にも注意されたことがなかったという。若者はむしろ年配者が注意しないことに不満を持っている(モトイズム)。
 ・研究の努力を1とすると、開発には 10 倍、実用化には 100 倍の努力がいる(井深大)。
 ・ものづくりエンジニアには「頭の良さ」よりも「頭の強さ」が重要である。頭の強さとは「好奇心」「執着心」であり、一度しがみついたらテコでも離れない「思い入れ」の強さである。「頭の良さ」は生まれつきだが「頭の強さ」は訓練で鍛えられる(モトイズム)。
 ・仕事と私生活を峻別させ「仕事は生活の糧を得る手段」と割り切る人がいる。これは大変もったいない。仕事はつらいことも多いが、人生で最大の充実感を与えてくれるのも仕事だ。一回限りの人生、仕事をエンジョイして欲しい(モトイズム)。
 ・仕事は偏差値試験のように易しい問題から解くのではなく、難しい課題から。一日考えてダメなら一週間、それでだめなら一カ月、要は「頭が割れるほど考えたか」にある。考える習慣がつけば、解決の道筋が必ず見えてくる。思いと執着心を失ったとき、仕事は失敗しその幕は閉じる(モトイズム)。

思いおよび信念
 ・科学者は存在する世界を発見し、技術者は全く存在していなかった世界を創り出す(カルマン渦や圧延理論で先駆的研究をしたフォン・カルマン)
 ・“Stay Hungry. Stay Foolish”とSteve Jobsが残している。抜け目のなさ(clever)よりも、賢さ(smart)よりも、愚直(foolish)で行こう!
 ・望みを成就するためには、並みに思ったのではダメ。「すさまじく思う」こと。寝ても覚めても四六時中そのことを思い続け考え抜く。頭のてっぺんからつま先まで全身をその思いで一杯にして、斬れば血の代わりに「思い」が流れる。そのことが物事を成就させる原動力となる(KDDI稲盛和夫)。
 ・カシオの電卓、旧国鉄の新幹線、シャープの液晶、東レの炭素繊維、ソニーのウオークマン、東芝のフラッシュメモリー、トヨタのハイブリッド自動車。世界をうならせる新製品・新技術を誕生させた会社には必ず、自説を頑として主張して曲げない個人がいた(モトイズム)。
 ・誤解を恐れずに言うと、私は生意気な人が欲しい。「欲がない人間」「好奇心のない人間」に用はない(SONY盛田昭夫)
 ・盛田さんは、お前考えろとか誰かに考えさせろ、とか決して言わない。自分自身が考えるんです。僕らエンジニアはそういうものに非常に敏感ですぐにわかるんです。あっ、この人は自分で考えているな、そうきたか、だったら、こういう提案はどうか、こっちも負けないように、必死に勉強して考えるようになる(SONYのあるエンジニア)。

教育をどうする
 ・明治政府は近代化を急ぐあまり文系、理系を峻別して促成の教育を施してきた。この結果、お互いの世界を全く理解できない、理解しようとしない国民性が醸成された。この意識の断絶を回復することが 21 世紀の科学の大きなテーマだ(村上陽一郎・科学史家)
 ・感受性の鋭い若いときに高度な教養を経験しないと理系・文系アレルギーは生涯付きまとう。学部では大まかな文系、理系の基礎教養教育だけにし、機械・電気・情報・土木・建築などの専門教育は、大学院から始めるべき(モトイズム)。
 ・カリキュラムを学生の選択に委ねてはならない。育ち盛りには、口に合わないニンジンやピーマンも食べてもらわなければならない。学生には苦い薬の投与も必要である。難しいと言われる数学・物理に基づいた力学が機械工学の神髄である。選択科目とは「楽勝科目の選択」になりやすい(モトイズム)。
 ・「先端は末端に通じる」の例え通り、先端研究に学生を従事させたいばかりに、基礎力を欠いた役に立てない人材を産業界に送り出している惨状が多く見受けられる。本来は基礎学問を徹底させた基礎研究の上に先端的な研究に花が咲くのである。基礎教育は大学教育の義務であり、責務である(モトイズム)。
 ・わが国では博士学位取得者の民間企業等への就職は少なく、企業側が歓迎する「使いやすい学生」の修士学生が就職に有利になって久しい。このことが大学院(修士課程)進学率の増加につながってきたが、この便利さに対して「使いにくい学生」として博士学生を避ける傾向が続いてきた。日本の政府・産業界の博士学生への関心の無さや冷たさは尋常ではない(モトイズム)。
 ・日本の大学はリアルからバーチャルの教育にシフトしている。もっとリアルで泥臭い機械系、電気・電子系の教育を重視してほしい(ファナック山口賢治)。

外から日本を見る
 ・日本人は細部の技術には優れているが、全体としてのシステム設計には問題がある(日本に開国を迫ったマシュー・ペリー)。
 ・日経新聞コラムの中国人留学生スピーチコンテストから:あなたの意見を聞きたいと日本の学生に食い下がると、下と向いて黙り込むばかり。日本人は沈黙する羊たち…我々留学生は日本人と交流するのを諦めている。
 ・ドイツでは専門職(マイスター)を大切にする風土があり、実業学校が社会的に評価されている。「町のパン屋さん」から「高級エンジニア」に至るまで、一度は実際の職場での研修が義務付けられている。産業界を5年以上経験していないと工学系の教授にもなれない(モトイズム)。

 以上5回にわたりお届けしました浅川基男・早稲田大学名誉教授の『日本のものづくりはもう勝てないのか?』のご紹介を終わります。
 浅川先生は、ネットに『モトイズム』と題したサイトを立ち上げていらっしゃいます。浅川先生に限らず、教育関係者から「このままでは」とか「とくに今年の工学部入試は酷かった」などいう声を聴きます。大学は、高校生が来てくれないと困る。しかし弱気になると、国の科学力・技術力は崩れていきます。
 いまが「踏ん張り時」だ、と申し上げてひとまず連載を終わります。